略取 14

2012.01.16 Monday | 22:15
 いつも無口な僕が、こんなに熱く会社の中央で愛を叫んでいるのに、皆はどんどん引いていって、時間を気にするフリをしながら腕時計を見て、ぱらぱらと席についていった。
 ・・・・
 なんだよ〜!
 もっと、僕の話を聞いてよ〜〜!
 ・・・
 仕方なく、僕も席について仕事を始めてみた。
 10分が経過したら、ポケットの中に隠してる私用の携帯がぶるぶる震えた。
 わ〜い、まゆこちゃんかな〜、と、マネージャーの目を気にしつつ、こそこそ相手を確認してみたら、違うフロアーにいる他の課の同期の男だった。
 ・・・
 ・・・あえて文章は読まなかった。
 ・・・内容、なんとなくわかっちゃったりして・・・。
 ・・・僕の結婚がほんとかどうか・・・ってとこだな・・・。
 ・・・
 なんでわかった?
 ・・・情報を流した人がいるって事?・・・
 ・・・
 ・・まあ、犯人はすぐわかるけどね・・・。
 僕の目の前でそ知らぬ顔をして仕事してる田中さんか日高さん・・・だよね・・・。
 ・・・
 この2人のどっちかが、僕の同期に一斉送信したんだ・・・メールを・・・。
 いつの間に?
 携帯やPCを触ってるそぶり、全然無かったけど・・・。
 ・・・
 真面目に仕事に専念して下さい〜!
 ・・・
 ほっといたら、メールがどんどんきた。多分、絶対、同期から・・・。あとは、恐らく、田中さんと日高さんの同期から・・・。
 ・・・
 さりげなくトイレに行って、個室に籠もり、携帯のメールを開けてみた。
 ・・・
 やっぱり・・・。同期といっこ上の先輩軍団・・・。
 ・・・なんなんだ、こいつら・・・。誰も僕の電撃発表を信じてない・・・。
 僕の一方的な思い込みだって・・・、彼女の気持ちを尊重しろって・・・。もっと慎重になれって・・・。
 ・・・
 どういう事?・・・
 ・・・
 ・・・むかつく・・・。
 ・・・
 だけど、これ・・・、皆、仕事中、上司の目を盗んで、自分の携帯にメール文を入力したって事だよね・・・。
 ・・・アホ?・・・何、こんなイタメールに無駄な情熱かけてんの?・・・
 ほんとに真面目に仕事してよ〜!
 緊急時以外は、自分の携帯、使用禁止だよ〜!
 ・・・
 皆のメールに紛れてうっかり見落としそうになったけど、母からメールが1通来てた。
 
 今晩、8時頃電話します。
 仕事中かもしれませんが 電話に出て下さい。
 
 ・・・
 ふうん・・・。昨日の僕の一方通行の電話に怒ってるって感じ・・・。
 きちんと、僕の結婚について話をしたいって?・・・言いたい事があるって?・・・
 ・・・
 やれやれ、仕方ないけど、聞いてやるか・・・。
 僕だけの事じゃないしね・・・、まゆこちゃんも関わってくるし・・・。
 彼女には、僕と気持ちよく結婚して欲しいから・・・、僕と肉親の仲がぎくしゃくしてる・・・なんて、嫌な思いはさせられないしね・・・。その挙句、結婚を断られたら、困っちゃうし・・・。
 ・・・
 その日は、なんとなくダラダラと残業になってしまったので、かえってよかったかな・・・と思った。探りを入れようとする同期としゃべらなくて済む〜。
 同期の誰にも知られていなければ、朝みたいに熱く語りたかったけど、今さらもう知られたのに、同じ話を繰り返すのも、なんか張り合いがないし・・・。
 ・・・なぜか、日高さんも残業だった・・・。
 ま、いいか・・・。
 8時ちょっと前に母から電話が来た。日高さんに、ちょっとすみません、と断って電話に出て、その場でしゃべった。
「・・・昨日は急な電話ですみませんでした・・・。ええ、あちらのお母さんはとても喜んで下さいました・・・。僕を歓迎してくれてると思います。・・・はい、そうですね・・・、僕としては、今度の日曜日、ご挨拶がてら、結婚式の大体の流れ的な事も打ち合わせしたいと思ってます・・・。・・・知ってるでしょう?彼女のお父さん、単身赴任で忙しい方なんで、あまりお手数とお時間、取らせたくないんですよね・・・。彼女も、多分ですけど、日曜日は仕事で休めないと思うので、同席出来ませんから・・・。・・・はい、僕とあちらのお父さんで話をどんどん進めておきたいですね・・・、年内に挙式したいから、スケジュール的にかなりハードだと思うんで・・・。・・・明日の夜ですか?・・・そうですね・・・、わかりました・・・急ですが予定入れておきます。・・・良いですよ・・・大丈夫です・・・。彼女に連絡しておきますから・・・、彼女の仕事が終わる時間に合わせて下さいね。・・・彼女、好き嫌いは無いですけど、身体の事を考えて、食事場所、選んで下さい。ご馳走になります・・・。・・・はい、失礼します・・・。」
 いつもどおり、事務的に受け答えした。
 要は、明日の夜、まゆこちゃんと僕と母と重森さんと一緒に食事でもどう?という内容だった。
 ・・・なんだよ〜、こんなのメールでいーじゃん・・・。
 日高さんは、仕事しながら、耳が思いっきりダンボになってた・・・。
「・・・加納くんって、いつもそうなの?電話、お母さんでしょ?言葉、ちょー丁寧だね。」
「そうですか?」
「うん。丁寧だけど、なんかそっけない〜。冷た〜い〜。」
「・・・お年頃ですから・・・。反抗期なもんで・・・。」  
 咄嗟にそう答えたけど・・・。
 ・・・そっか・・・。
 ・・・僕って、母にそっけないんだ・・・、他の人にもわかっちゃうほど・・・。
 気をつけなきゃ・・・。
 ・・・
 あ〜・・・、でもなぁ〜・・・、まゆこちゃんにはばれてるよね・・・きっと・・・。
 僕、今まで散々、母と重森さんの事、冷たく明るく突き放した言い方してたからなあ・・・。今さら、取り繕っても遅いか・・・。






略取 13

2011.12.23 Friday | 23:03
 部屋に入ってスーツを脱いでいるうちに、感動?がマックス盛り上がってきた。
「うおーーーーーっ!!」
 上半身裸で拳を固く握って、のけぞりガッツポーズ!!
 勝利宣言!!
 勝った!!
 ・・・あ・・・、勝利に酔いしれてる場合じゃないや・・・、まゆこちゃんにメールしなきゃ。
 僕がどんなに喜んで最高に幸せなのか、毎日逐一メールしないと!
 油断したら、彼女、きっと、僕との結婚やめちゃうかも知れない。
 諒くんがしつこく、結婚なんかやめなよ!って彼女を洗脳しそう・・・。
 まあ、でも、大丈夫だよね・・・、なんてったって、まゆこちゃんは妊娠してるんだから・・・。僕の赤ちゃんを!
 弟の諒くんがどんなに騒いだとしてもダメだよね・・・、世間は僕の味方だよ・・・。
 携帯画面を見つめながら、愛情たっぷりのメールを入力していたら、顔が勝手ににやけてきた。
 ・・・
 結婚・・・、僕が結婚・・・。
 すっごい不思議な響き・・・。不思議過ぎて恐ろしい・・・。
 以前の僕は、自分が女の子と結婚する・・・なんて少しも思ってなかったし・・・。
 むしろ、絶対結婚なんかしない!って固く心に誓っていた程なのに・・・。
 ・・・結婚かぁ〜・・・。
 僕みたいなこんな人間でも、できるんだ・・・。
 ・・・って、違うか・・・、僕が無理矢理、強引にもっていったんだっけ!
 おまけに、来年、パパになる!
 僕がパパ!?家庭を持つ!?
 嘘みたい〜、意外過ぎて自分でも信じられない!
 あ〜、もう、限りなくテンション上がっちゃう!
 生きてて良かった!人生最高の日!
 しつこく電話して良かった!
 ・・・
 メールを送信した後、これからの予定を考えていたら、興奮し過ぎて、夜、眠れなかった。
 だけど、疲労感一切無し!
 かえって、頭が冴えて絶好調的な高揚感!
 気持ちよく出社したら、田中さんのデスク周辺に、なぜか日高さんとか数人の先輩達がたむろってた。
 ・・・
 ・・・はぁ〜っ・・・。よりによって・・・。
 ・・・どうせ、社内の人のくだらない噂話してるんだろうけど・・・。
 この人達、時々、こうやってたまる朝があるんだよね・・・、見事に今日、ぶち当たってしまった・・・。
 皆して、良いカモがキター!にやり!みたいな顔して、こっち見てる・・・。・・・やだやだ・・・。
「加納くん!何か良い事あったの?スキップしてるね!」
 ・・・うざっ・・・。
 ワンパターンなんだよ!日高さん!
 また、スキップネタ?古いわっ!
 何度も言うけど、社内でするわけないだろ?!しかも朝一で!
「・・・してません・・・。良い事はありましたけど、スキップをした覚えはありません・・・。とりあえず、諸先輩方、おはようございます。」 
「え?おまえ、良い事があったって言った?なんだ、なんだ!?教えろ〜!自分で言うなんてマジめずらしーじゃん!」
 ・・・
 ・・・田中さんがくいついてきた。
 ふふふ・・・仕方がないなぁ〜・・・・。そんなに聞きたいなら、教えてさしあげましょうかぁ〜!
「言って良いですか?!それでは、遠慮なく!僕、結婚が決まったんです!年内に結婚します!」
 大声で明るく一気に笑顔で言ってみたら、フロア中の社員が一斉にこっちを見た。
 ・・・
 皆、軽く引いてる・・・。
 ・・・なんで?
 ・・・
「え〜〜〜っ?マジで?本当?冗談でなく?」
「おまえ、嘘つくんじゃねーし!」
「・・・加納君が結婚・・・。急にまた・・・。」
「朝一の妄想ギャグ?・・・目が覚めるように?・・・」
「本当です!昨夜、決まりました!なんでそんな驚くんですか?」
「いや、驚くだろ!だって、おまえ、そんな話、少しもしてなかったじゃんかよー!」
「僕の中では決まっていたんです!あ、正式発表はそのうち、きちんとマネージャーと課長に言いますから。・・・あっと・・・、えっと〜、部長にも言った方が良いのかな?・・・う〜ん・・・社長にはどうしよう・・・。人事課を通して?秘書室?・・・」
 ・・・ダメだ・・・。
 話していたら、また、嬉しさがこみ上げてきた。
 顔がにやける・・・。    
「・・・加納の顔が崩れてる・・・、笑ってる・・・。事実なんだ・・・。」
「・・・朝一で・・・電撃発表・・・。・・・加納くんが、結婚・・・ねぇ〜・・・。」
「そうなんです!しかも聞いて下さい!僕、来年、パパになるんです!赤ちゃんが生まれるんです!」
「・・・!」
「・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと・・・・・・・・・・アハ・・・、アハハ・・・・・、えっと・・・、そ・・・そうなの?・・・・・・・それは、・・・それは・・・・おめでとうございます・・・・って言うか・・・・。なんていうか・・・・、まあ・・・・、そ・・・そうよね・・・、おめでたい事で・・・・。」
「なんで言った?なんで今?・・・隠せよ!おまえ!」
「・・・いけませんか?・・・」
「!!!言っちゃダメとかじゃなくて・・・、デキ婚だろ?小さい声で言えよ!!」 
「デキ婚なんて軽い言葉、使わないで下さい!赤ちゃんは僕と彼女と、愛の結晶なんですから!」
「うわっ、マジだ、こいつ!こえっ!からかう余地無しだ!!」 






略取 12

2011.12.14 Wednesday | 21:58
 諒くんに勝った!
 彼は普通を演じつつも、僕に対して明らかに激しく怒ってる!
 嬉しい!!
 嬉しすぎる!!
 お母さんの話が頭の中を素通りしそうな位の高揚感!
 この分じゃ、彼女の妊娠と僕との結婚を知った兄さんも、さぞかし・・・!!
 たまらない!!この快感!!
 諒くんから来る「早く帰れオーラ」をチクチク感じるのが、とても気持ちが良い!
 時計を見たら、10時過ぎてた。
 これから、まゆこちゃんとお母さんも今後を相談しなきゃだろうし、僕もこれから今日中にやる事があるな、と思った。
 今度の日曜日に母と一緒にご挨拶に来ます、と締めくくって、帰る事にした。
 予想外の展開?に戸惑い気味のまゆこちゃんと、これから忙しくなりそう〜〜と張り切っている感じのお母さんに見送られて、家を出た。
 諒くんは何か言ってくれたけど、僕の顔を見ようとしなかった。背中が露骨に怒っていた。
 ・・・
 可愛いなあ〜・・・。
 萌えちゃう!感動!
 ・・・
 車を発進させて、大通りに出た。
 大きく息を吸い込んで、「やったー!!」と叫んだ。
 「兄さん、ざまあみろ!!」
 「諒くん、ごめんね!」
 「大沢さん、残念でした!!」
 「まゆこちゃん、愛してるよ!一生、離さないからね!僕の奴隷だよ!」
 「諒くんの赤ちゃん、待ってたよ!僕がパパだよ!」
 運転しながら、思いつく限りの雄たけびを絶叫した。
 とりあえず、帰宅したら、母に電話だな・・・、兄さんにはまだ言わなくていいや。じらそうっと。
 まあ、ほっといても、そのうち母親が言っちゃうだろうけどね。
 会社には、明日ちょろっと、言おうか言うまいか・・・。
 アパートの駐車場に着いた。
 なんとなく、今、車の中から母に電話してしまおうと思いついた。
 業務連絡事項だから、車内で充分だな。
 詳しい事を聞かれる前にどんどん話して、さっさとすませちゃおうっと。
「・・・母さん?元基だけど、夜遅くにごめんね。あのね、急なんだけど、僕、まゆこちゃんと結婚するから。今、まゆこちゃんの家に行って申し込んできた。僕の赤ちゃんが生まれるんだ。それでね、今度の日曜日、一緒にご挨拶に行ってくれない?用事があるなら別にいいよ、僕一人で行くから。・・・お父さん?・・父さん?・・・ああ〜、重森さんね・・・。あの人はいいよ、赤の他人だから。いらない、必要ない。じゃあね、時間とか詳しく決めたら、メールするから。」
 予想通り、突然の結婚&妊娠話に母は驚いて色々聞いてきたけど、僕の言葉で会話をさえぎった。
 言いたい事だけ早口で言うと、すばやく電話を切った。
 最後、母は、重森さんに対しての僕の言葉に怒ってたみたいだけど、無視した。
 だってそうじゃん、赤の他人なんだから、僕の結婚にはいらない人だよね?
 ・・・
 僕の結婚に関わりたいのかなあ・・・。
 ・・・仕方ないなあ・・・。
 どうしてもって言うなら、めんどくさいけど、お金だけは受け取ってあげる。 






略取 11

2011.12.12 Monday | 22:11
 諒くん、泣いてる?それとも怒ってる?・・・
 楽しみだなぁ〜、顔を見るのが!
 ・・・
 お母さんは、お父さんに連絡をどうしよう・・・みたいにそわそわしだした。
 今電話した方が・・・みたいに言い始めたら、諒くんが、つい今帰ってきました、みたいにおもむろに登場した。
 ・・・
 すごい!落ち着き払ってる・・・。
 貫禄〜!さすが、この家のお父さん役だけあるね!
 ・・・
 諒くんは、電話は後の方が良いとか、僕にお茶とか、自分にご飯、とかテキパキ指示?を出した。
 諒くんの言葉に我に返ったみたいで、お母さんとまゆこちゃんが動き出した。
 悠然と構えている諒くんは、僕に椅子を勧めた。
 ごく自然に観察させてもらったけど、可愛い笑顔だった。
 ・・・
 ・・・100%作ってるな・・・って思った。
 この笑顔、まゆこちゃんと僕が付き合い始めた頃、僕のバイトしてたレストランにご両親と食べにきた時の顔だ。
 あの時、可愛い顔して、僕の事、探りに来たんだよね。
 僕と2人っきりになったら、途端に顔を変えて、泣きそうになったよね。
 ・・・
 今の諒くん、相当なショックを受けたんだね・・・、僕とまゆこちゃんの結婚に・・・。
 ・・・ごめんね・・・、残念でした〜・・・。
 ・・・
 ・・・彼女の妊娠の話は聞いていたのかな・・・。
 僕と諒くんが話をしていたら、まゆこちゃんが僕にお茶を出してくれた。
 諒くんは途端に、テレビを見たいからコタツの方に移動してくれます?、と言った。さっきは、椅子どうぞ、なんて言ってくれたのに、見事な方向転換!
 ・・・
 出た!本音!!
 待ってました!
 怒ってるね!かなり!
 そうこなくっちゃ!
 僕も張り合いが無いよ!
 ・・・
 諒くんにご飯を用意したお母さんも座卓の方に来たので、諒くんはテーブルで独りご飯、僕とお母さんとまゆこちゃんは3人でおしゃべり&お茶、みたいな感じになった。
 お母さんは、自分とお父さんの結婚式の事を思い出しては話してくれた。まゆこちゃんの妊娠には触れなかったので、僕ももう口にしなかった。
 なんとなく気持ちはわかった。
 つまりはでき婚だし・・・、年頃の息子には言い憎いよね・・・。
 まあ、諒くん、多分、さっきの話、聞いていたと思うけど・・・。
 ・・・
 それにしても、勝つって気持ちが良いなぁ〜!
 久々の勝利感!
 僕の思惑通り!
 おなかの底から笑いたいのを隠すのが辛い!
 手を挙げて万歳!!って叫びたい気分だよ!
 これから、両家顔合わせ?結納?結婚式?・・・
 よくわからないけど、ネットで調べて、きちんとこなしてみせる!
 父親がいないから・・・、なんて思われないよう、僕一人でも完璧にやる!やってみせる!
 僕は出来るんだ!
 皆から、さすがだね!って思われるんだ!
 自信はある!
 彼女と結婚した後も、常に幸せに完璧に家庭を維持して、諒くん、兄さん、大沢さんを永遠に悔しがらせるんだ!! 
 今までの苦労が報われた!
 きっと、今勝つために、苦労をしてきたんだ!
 僕は勝ち組だ!僕は人生の成功者だ!






略取 10

2011.12.11 Sunday | 20:27
 車は彼女の家のある住宅街の道に入ったので、諒くんが駅から歩いてこないかとキョロキョロ探しながら運転してみた。
 ひたすら念じた。
 ・・・
 頼みます!諒くん!彼女の妊娠、まだ知らないでいて!
 僕の計画の邪魔をしないで!
 ・・・
 急いで、彼女の家の駐車場に車を入れて、玄関のインターホンを押した。
 すぐに、中から彼女の声がしたので、ドアを開けた。
 玄関から上がったすぐのところに、神妙なっていうか、わけがわからないっていうか、どうしていいか困ってるっていうか・・・、なんともたとえようがない顔で、彼女は立っていた。
 やっぱり、僕の勘どおり、悲しげな雰囲気だった。
 妊娠を喜んでる感じではなかった。
 多分、僕の顔は満面の笑顔・・・って自分で気付いたので、ちょっと顔を引き締めた。
 彼女を抱きしめて謝った後、愛をささやいてキスして、リビングへお邪魔した。
「こんばんは・・・。夜分突然すみません。お邪魔します。」
 お母さんは、座卓に座って、普通にパソコンをしていた。僕を見ると、
「あら〜、いらっしゃい〜。お仕事の帰り?ご飯食べました?」
 って、全然いつも通りだった。
 ・・・
 彼女の妊娠、全く知らないんだ・・・って思った。
 諒くんも、いる気配が無い。
 チャンスだ!
 神様とお父さんが味方してくれてる!
 自分、頑張れ!
 ・・・
 ・・・お願いがあります、と言って床に正座して、一気に「お嬢さんを僕に下さい!」って言い切った。
 お母さんは、すごくびっくりした顔をした。
 だけど、まあ、いつかはそうなるだろうな・・・みたいに思っていたようで、すぐに好意的な笑顔になった。
 ・・・お母さん、ごめんね、さらに驚いてくれる?・・・
 心の中で軽く謝って、「おなかの中に僕の赤ちゃんがいます!」ってさっきより大きい声で付け足した。
 さすがに、これは、お母さん、かなりのびっくりみたいだった。
 ・・・やっぱり、知らなかったんだ・・・、彼女、言ってなかったんだ・・・。
 この分なら、諒くんにも言ってないね・・・、やった!!
 ・・・
 僕が頭を下げている間、お母さんは、僕の後ろにいるまゆこちゃんに、本当なの?みたいにアイコンタクトを取ってる感じがした。
 お母さんは急に慌て始めたようで、混乱気味に何か、独り言を口走ってた。
 僕は黙って頭を下げていた。
 後ろのまゆこちゃんは、呆然と座ってる感じだった。今ここで、僕がお母さんに結婚をお願いするっていう展開が、予想外だったみたい。
 ごめんね・・・、肝心の君を飛ばして、お母さんに直接言っちゃって・・・。
 ・・・
 まゆこちゃんの後ろから、なんだか人の気配っていうか、念みたいなものが僕に向かってくるのを感じた。
 玄関に誰かいて息をひそめてる・・・って気付いた。
 まさか、日野さんの霊?・・・って思って警戒したけど、正体はすぐにわかった。
 ・・・
 諒くんだ・・・。
 ・・・
 帰ってきたんだね・・・。
 ・・・
 駐車場にある僕の車に気付いて、さらに、いつもと違う異変?をかぎつけたんだ・・・。
 静かにドアを開けて入ってきて、こうやって、僕達の会話、じっと聞いてるんだ・・・。
 へぇ〜っ・・・、悪趣味だね・・・、ふふふ・・・。
 ・・・
 それとも、あまりのショックにフリーズしてるのかな?・・・
 ・・・
 ・・・残念だったね・・・。
 彼女の妊娠、知らないでしょ?
 僕の勝ち!だからね・・・!
 お母さんに、先に言っちゃったからね。
 もう、弟の君に勝ち目はないからね。
 ・・・
 君とまゆこちゃんの近親相姦はとても美しくて僕は大好きだけど・・・、世間的に認められる事、まずないから・・・。
 世間は、当然、僕の味方だよ。
 わかるよね?
 だから、赤ちゃん、もらったからね!
 僕の子どもだよ! 






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