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「・・・辛かったから、見たくなかったんだよね・・・。」
「ううん・・・、なかったことにしたかった・・・っていうか・・・。冷たかったね・・・。ちゃんとしっかり見て門出を祝福してあげれば良かった・・・。」
「・・・」
「・・・それだけは後悔してる・・・。もっと大人な対応できれば良かった・・・。」
「・・・十分、よく頑張ったよ・・・、奈津美は・・・。大人な対応なんて、正解、ないから・・・。」
「・・・ありがとう・・・、お姉ちゃん・・・。」
「・・・」
「・・・」
「・・・三日間だったけど・・・、みんなから愛されて旅立っていったよね・・・。」
「ありがとう・・・。陵ちゃん・・・、どことなく、孝司さんに似てる・・・みたい・・・。今、改めて見ると・・・。」
「・・・そっか・・・。パパだものね・・・。」
「・・・」
「・・・」
「・・・写真、渡してくれてありがと・・・。とりあえず、家に持って帰って・・・、どうするか決める・・・。」
「・・・うん・・・。大丈夫?辛くない?平気?・・・」
「・・・うん、平気・・・。・・・逆に、なんか嬉しい・・・。写真、あってよかった・・・。」
「・・・そっか・・・。・・・多分だけど・・・、お父さん、奈津美が落ち着いたら見せるつもりだったんじゃないかな・・・。棚の奥に入れて、あえて隠してたのかもね・・・。でも、お父さん、先に死んじゃったから・・・、お母さんがこの間見つけるまでそのままで・・・。」
「・・・うん・・・、きっとそうだね・・・。」
「お父さんが言ったんだよね・・・『三日しかいないけど、名前をつけてあげな・・・』って・・・。それで、奈津美が『陵』って・・・。」
「うん・・・。」
「・・・ね・・・。そしたら、その後、2月に生まれたうちの子に、だんなが諒って名前つけて、ほんとびっくりしたよねー!」
「うん、驚いた。」
「・・・これも何かの縁って思ってつけたけど、奈津美にはつらい想いさせちゃったね・・・。呼び名が同じで・・・。」
「ううん・・・。そんなことない・・・。逆に、諒ちゃんの存在にどれだけ救われたか・・・。」
「・・・」
「・・・あたしね、お姉ちゃんちに諒ちゃんが生まれてなかったら・・・、多分、ほんとに世の中を恨んで、死んだ孝司さんも恨んで・・・、ほんとの自律神経失調症になって、短大に復帰しないで中退しちゃったと思う・・・。」
「・・・・」
「・・・お姉ちゃんに諒ちゃんが生まれて、産後、うちに里帰りしたじゃない?」
「うん・・・。」
「・・・あの時、まーちゃんのお世話をしてたら、母性が芽生えたっていうか・・・、諒ちゃんもとても可愛かったし・・・。お姉ちゃんの子どもっていう安心感っていうか、冷静に客観的に見れたっていうか・・・、普通の思考に戻れたんだよね・・・。孝司さんを恨んでる暇があるなら、お姉ちゃんの代わりにまーちゃんを立派に育てて、まーちゃんから尊敬されるように短大も頑張って卒業して・・・!ってすごく前向きになれたの。微熱が急に止まっちゃってね!・・・。」
「そうだったんだ・・・。」
「お母さんが留守で、お姉ちゃんが疲れて寝てる時、泣いてる諒ちゃんにこっそり母乳あげたことあったし・・・。」
「そーだったんだ?!ありがと!」
「抱っこしてたら、なんか胸が張って、お乳が出てきたんだよねー!びっくりした!陵の時は、初乳あげただけで、全然出なかったのにー。嘘みたい!って思った!」
「へー!そんな事がねー!」
「・・・えへへ・・・。諒ちゃんのおかげ・・・。まーちゃんとお姉ちゃんと・・・!お世話になりました!」
「いえいえ、とんでもないです・・・。こちらこそお世話になりました・。・・・でも、良かったね・・・。1年留年したけど、無事卒業できて・・・。」
「うん・・・。ほんと良かった・・・。」
「・・・」
「・・・」
「・・・奈津美は・・・、孝司さんの事・・・、今も恨んでる?・・・」
「・・・今はもう全然・・・。・・・逆に、若くして亡くなってお気の毒・・・って思う・・・。全然元気だったのに大学の休みに実家に帰って突然心筋梗塞で・・だものね・・・。21歳じゃ・・・、本人も、無念だよね・・・。」
「・・・」
「・・・お墓参りして、思いっきり愚痴をぶちまけようって思ってたけど・・・。お墓の場所を書いたメモ、なくなっちゃったの・・・。だから、これはもう、いいんだ・・・終わったんだって解釈して、解放しよう・・・とか、解放されよう・・・とか、良い風に受け止めた。」
「・・・」
「・・・生きてたら、結婚してたかも・・・、とか、子どもができたって知った途端ふられたかも、とか・・・。いろいろ想像したけど・・・、もうね、どうでも良くなった。」
「・・・」
「お姉ちゃんが、特別養子って手があるから!って調べてくれて・・・、あの子の命、つないでくれたから・・・。」
「・・・」
「・・・あたしも、ごめんね・・・。黙ってて・・・。中絶できない時期になっちゃって・・・。もしかしたら妊娠・・・って思ったけど、絶対違う!って打ち消してたら、時間が経っちゃって・・・。」
「・・・」
「諒ちゃんを妊娠してるお姉ちゃんの様子を見てたら、これは絶対妊娠してる・・・って確信して、泣きながらお姉ちゃんに打ち明けたんだよね・・・。」
「・・・うん・・・。でも、ほんとにつらかったよね・・・。孝司さんと連絡がとれないと思ってたら、実家に帰省中に亡くなって、お葬式も済んでたなんてね・・・。そのあと、妊娠に気づいたんだもの・・・。ほんと、悲劇だよ・・・。」
「もうー、お姉ちゃんったらー。両親もー。」
「あはははは!」
「・・・笑っていいのか悪いのか、判断に迷う・・・。」
「・・・思い出したらおなかが痛い・・・。・・・でも・・・、そっか・・・。そうなんだ・・・、じゃあ・・・えっと・・・、バッグに入れてきたかな・・・。車の中だっけかな・・・。あ、バッグの中にあったあった。」
・・・
お姉ちゃん、バッグの中から大事そうに小さい紙の袋を出すと、神妙な顔をして、私に差し出した。
・・・
「はい、これ。・・・今見てもいいし・・・。後でもいいし・・・。どうするかは奈津美にまかせる・・・。」
「・・・?・・・」
「奈津美の様子次第では、あたしが処理しちゃおうかなとも思ったんだけど・・・。今の奈津美なら見れるかも・・・。」
「・・・見る・・・。見たい・・・。・・・もしかして、写真か手紙?・・・」
「・・・うん・・・。」
「・・・もしかして・・・、孝司さん?・・・」
「・・・ううん・・・。」
「・・・今、ここで見てみる・・・。」
「うん・・・。」
・・・
恐る恐る袋の中に手を入れた。
写真数枚が入ってた。
出してみたら、色あせたカラー写真・・・。
・・・
「・・・」
「・・・」
「・・・古いね・・・。赤ちゃんがベビーベッドに寝てる・・・。病室?・・・これ・・・、私・・・?」
「・・・違う・・・。」
「・・・あ・・・陵・・・ちゃん?・・・お父さん、撮ったの?・・・」
「・・・そうだと思う・・・。鉛筆でね、貼ってあった台紙に薄く、『陵 生後3日目 病室にきた』って書いてあった。」
「・・・お父さん、撮ったの・・・、知らなかった・・・。」
「・・・うん、私も・・・。赤ちゃん、部屋にいたの、1日だけだったし・・・。奈津美、熱出してぐったりしてたから・・・。」
「・・・この写真、どこにあったの?・・・」
「この間ね、お母さんが諒の写真だよって、古いアルバムを押し入れの上の棚から見つけて、うちにくれたの。そしたら、一番最初のページにこれが貼ってあって・・・、陵ちゃん、うちの諒より早く生まれたから・・・。」
「・・・うん・・・。陵は1月で、諒ちゃん、2月で・・・。」
「・・・陵ちゃん・・・、この次の日・・・だよね・・・。もらわれていったの・・・。」
「・・・うん・・・。あたし・・・、覚えてる・・・。布団の中に隠れてた・・・。」
「えへへ・・・。また泣けてきちゃった・・・。」
「・・・いっぱい泣きなよ・・・。一番つらかったのは奈津美なんだから・・・。よく耐えたよね・・・。」
「・・・ううん・・・。お姉ちゃんとお父さんとお母さんの方がつらかったよ・・・、絶対・・・。あたしなんか当事者なんだから・・・、耐えて当然だよ・・・。全然だよ・・・。」
「・・・そんなことないって・・・。」
「・・・3人がそばにいてくれたから・・・心強かったし乗り切れた・・・。耐えられたのは家族のおかげだから・・・。でも・・・、お姉ちゃんには一番心配かけちゃって・・・。ごめんなさい・・・。寄り添って親身になって一緒に悩んでくれて・・・。感謝してもしきれない・・・。」
「・・・あたしなら大丈夫・・・。あちこち電話して八つ当たりして、行動で解決、発散したから。」
「・・・うん・・・、いっぱい電話してあたしの代わりに言いにくいこと言ってくれて・・・、聞いてくれて・・・、嫌なことも言われたって思うのに・・・。あたしには何も言わずに黙って動いてくれて・・・、身重の身体で・・・。」
「妹のためだもん!当然!」
「・・・本当にありがとう・・・。ほんと、あの時、一生分、面倒見てもらっちゃった気がする・・・。」
「いやいや、まだだよ、まだ!やり切れてない!終わってない!・・・孝司さんちに車で突っ込んで玄関破壊計画、まだ実行してない!・・・」
「・・・?・・・」
「・・・ふぅー・・・、ため息〜・・・、それやらないと終わらないのよね〜!・・・私の中では・・・。」
「・・・え・・・?・・・」
「・・・いつ実行しようかな・・・。」
「ちょっと待って!・・・何それ?!・・・冗談に聞こえないんだけど!」
「・・・そして、家に上がって、孝司さんの位牌見つけてつかんで、『あたしのかわいい妹に何してくれてんだ!このぼけー!』って叫びながら位牌を畳にたたきつける。」
「((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル・・・・え・・・?・・・・」
「これで完璧なんだけどね〜。ふぅ〜・・・。」
・・・・
「・・・故人に・・・なんて罰当たり・・な・・・。」
「・・・あん時、うちの両親に止められたからさぁ〜。明日新潟行って実行してくる!って宣言したら。」
「・・・え?!まじでやろうとしたの?・・・・」
「もちろん!ま、正確には、お父さんは『よし、お前の気のすむまで暴れてこい!後の責任は俺が多分引き受けるかもしれないし、引き受けないかもしれない』って言ってくれて。」
「・・・いや、それ、絶対引き受けないでしょ!引き受けないよね!お父さん!」
「お母さんからは『やるなら、一筆書いていけ。うちの母親は死にました。』って紙と筆を差し出された。後々めんどくさいから死んだことにするって!」
「・・・もうー!止め方が甘い!何、そのゆるい感じ!」
「そんなこんなでやらなかったので、未遂?に終わりました。でも、もし、命令が発動されたら・・・、その時は誰も私を止められない!」
「やめてー!お姉ちゃん!普通の一般人に戻ってー!何か変なゲームのやり過ぎー!それー!!」
「・・・血が騒ぐ・・・。」
「・・・騒がんでいいよぉ〜〜〜〜!お願い、やめてぇぇぇ〜〜〜!・・・・って、何これー、どうしてギャグにいっちゃうのー?深刻な打ち明け話なのにー!」
「違うよ!捨てたんじゃなくって、生かしただよ!・・・」
「うんうん、ほんとそうだよね・・・。ほんとにそう・・・。お姉ちゃん、言ってくれたよね・・・あの時も・・・。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・諒ちゃんね・・・、まーちゃんの結婚式の次の日・・・、私にそういうこと・・・、ぼかしてだけど・・・、知ってたって・・・打ち明けてくれたの・・・。」
「・・・」
「・・・そしてね、そっと労わるように・・・手を握ってくれたの・・・。」
「・・・」
「・・・私、なんかもう泣けて泣けて・・・。まるで、あの子が許してくれたみたいに嬉しくて・・・。今まで胸の中でつかえてた塊がすーっと溶けて消えてったみたいで・・・。」
「・・・」
「・・・そしたらもう、すごい吹っ切れて・・・。心からあの子の幸せを願えるし・・・、そして、お姉ちゃん達への感謝の念がものすごいあふれて来るし・・・。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・あの子は・・・、あたしが産んだ陵は・・・大丈夫!・・・養親に愛されてきっと幸せになってる・・・。・・・もう養親におまかせしよう・・・。・・・私が執着してちゃいけない・・・。・・・養親がほんとの親なんだから・・・、私はただ赤の他人として幸せを願うだけ・・・。・・・って・・・今、ほんと素直に思えるようになって・・・。」
「・・・」
「・・・」
「・・・そっか・・・。」
「・・・うん・・・。」
「・・・」
「・・・」
「・・・そういう境地にたどり着けたんだ・・・。」
「・・・うん・・・。ちょっと遅かったけど・・・。」
「・・・そんな事ないよ・・・。」
「・・・そう?・・・えへへ・・・、ありがと・・・。」
「・・・」
「・・・」
「・・・強いね・・・、奈津美は・・・。」
「・・・ううん・・・、強くなんかないよ・・・。強いのはお姉ちゃんだよ・・・。未来を見据えた強い愛であたしと陵を守って生かしてくれて・・・。ほんとに感謝してる・・・。・・・感謝しかない・・・。」
「・・・奈津美・・・。その話って・・・。」
「・・・そだよ!・・・あん時の話だよ!・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・あれはもう・・・、忘れよう・・・って・・・・。」
「・・・ううん!あのね!逆!」
「・・・」
「なんかね、すっきりしたの!・・・すっきりって言ったら、あの子と孝司さんに悪いけど・・・。浄化したっていうか・・・、ふっきれたっていうか・・・、今はただ、幸せを願うっていうか・・・、そういう優しい気持ちになれたの・・・。」
「・・・」
「・・・苦しくないの・・・。全然辛くないの・・・。その逆であったかいっていうか・・・。」
「・・・」
「・・・特に、お姉ちゃんとお父さんとお母さんには、ほんとに心から感謝っていうか・・・、あたし、守られてたんだなあ・・・って・・・。」
「・・・」
「・・・あの頃は、自分ばっかり悲劇で辛くて死にたい・・・って思ってたけど・・・、実はそうじゃなくて、周りから愛されて守られていたんだなあ・・・って・・・・、40代の今、すごく今、ほんとに心から強く思えるの・・・。」
「・・・」
「・・・お母さん、わかってたんじゃないかな・・・、あたしがこの話、お姉ちゃんにするって・・・。だから散歩に一人で出かけてくれたのかも・・・。」
「・・・」
「・・・昨日電話した時、つい、『お母さん、短大卒業させてくれてありがとね』なんて言っちゃったから・・・。」
「・・・」
「・・・あたし、やっぱりね・・・、諒ちゃんの事・・・、やっぱり、自分の息子って感じで思ってたみたい・・・。」
「・・・」
「・・・ううん・・・。そう思い込もうとしてたのかも・・・、忘れちゃいけない・・・って・・・。常に気にかけていなきゃいけないって・・・。亜沙美や卓也や秀を愛する以上に、常に忘れないで愛してなきゃいけない・・・って・・・・。」
「・・・」
「・・・だから、諒ちゃん、きっと気づいてたんだと思う・・・。私、多分、そういう重い目で諒ちゃんの事、見てたはずだから・・・。あの子、鋭いところあるし・・・。私が子どもを捨てたって・・・、気付いてたと思う・・・。」