歯を磨いて、着替えた。二次会に着るドレスを着た。花嫁控え室に行くだけだから、こっちの方が荷物が減らせていいしと思い、もう着てしまった。
ネットで見つけたレンタルの、マタニティ・パーティードレス。家に届けてもらって、明日コンビニから着払いで返せるので、すっごく楽。
ノースリーブでウエストが絞ってある膝丈のドレス。ふわっとした黄色の生地で、スカート部分のダブルのフレアーがすごくきれい。胸が大きく開いて、ストールもついてる。一目で気にいって、即、申し込んじゃったんだよね〜。
持って行く物を最終チェックしたり、部屋の片付けをしてたら、あっという間に6時半になった。迷子になると困るから、もう部屋を出ることにした。
「元基くん、6時半だから、行ってきますね。」
熟睡中の元基くんのそばに行って、そっとささやいた。
「あ、行ってらっしゃい〜。後でお迎えに行くカラね。」
元基くんは気付いて、眠そうな顔をしてもにょもにょ返事をしてくれた。
1人でどきどきしながら部屋を出た。荷物大丈夫だよね。バッグも持ったし・・。
さあ、がんばるぞ〜、と指定された部屋を目指して歩き出した。
意気込んだせいか、5分で着けた。なんか、拍子抜け。すんなり行けて嬉しいような〜、力が抜けたっていうか〜。
もう着付の女の人が2人いて準備してくれていたので、あいさつをしてヘアセットを開始してもらった。
心付けは、お母さんが届けてくれるんだよね。私は座ってるだけでいいんだよね。
母は白無垢・振袖の時、顔を白塗りにされたなんて言ってたけど、さすが現代。そんなコトもなく、普通のメイクだった。でも肌がすっごくきれいに仕上がるから、プロってすごい〜って感動した。
元基くんは大丈夫かな〜。
少しでも予算を減らそう、ということで、元基くんはホテルの宿泊した部屋で着付をすることにしたんだよね〜。ネットで調べたら、花婿控え室なんてないとこも多いみたいで・・。
このホテルは、花婿さん用に部屋は用意してくれるし、着付の人も頼めるんだけど、元基くん自身が、僕はいらないです、部屋で1人で準備しますから、と担当者さんに言ってた。
っていうか、元基くん、全然知らない人に知らない場所で着物の着付とかやってもらうの好きじゃないみたい。結構、他人嫌悪症っていうか、体に触れられるのが嫌な人みたいで・・。
交通事故で入院した時も、看護師さんに触れられるのがほんとにつらかったらしいんだよね〜。1度、ぼそっとそんなコト言ってた。
元基くんの頭の中では、もう紋服の着付は、ヒロさんとお姉さんのユミちゃんに手伝ってもらうって決まってたみたい。そういう方向で、担当者さんと交渉してたし。
きっと予算がどうのこうのっていうのは、上手な口実だと思う。
ユミちゃんとヒロさん姉弟のお母さんも美容師さんだけど、今回はユミちゃんの双子ちゃんの面倒を見るそうで、手は出さないみたい。
お母さんの美容室を今ヒロさんが継いでいて、お母さんは昼間だけ手伝って主に年配のお客さんのパーマとか白髪染めをやっているそうだ〜。
ユミちゃんは自宅近くの美容室に働きに行っていて、着付とかメイクはヒロさんに頼まれるとお手伝いしてあげてるって、元基くんが教えてくれた。
元基くんの衣裳は、もう部屋に届いたかな〜。ホテルの貸し衣裳を手配したから大丈夫だよね。何かあったら、うりちゃんのご主人に連絡すればいいし。
元基くんの袴・羽織り姿・・かっこいいだろうなあ〜。
いつ、ダテ眼鏡かけるんだろう〜。楽しみ〜。
着付の人は40代位の人とお手伝いらしい20代位の方。もう真剣に一言もしゃべらないで、次々に段取りよくセットしていく。すごい早業〜。これ位やれないと、ホテルで雇ってもらえないのかな・・厳しい世界だね。
じっと座っているのも疲れてきたので、そんなコトを頭の中で考えながら、徐々に徐々に花嫁に変化していく自分を鏡の中に見て、気を紛らわしていた。